猫の泌尿器の病気は、ほかの臓器の病気に比べ非常に多く、10歳前後の猫で1割、15歳前後の猫で3割が慢性腎臓病(慢性腎不全)に罹患しているといわれています。
今回は、猫の慢性腎臓病についてです。
猫の腎臓病とは
少し前までは腎不全といわれていましたが、最近では腎臓病とい言葉が一般的に使われています。腎臓病は老化に伴い少しづつ腎機能が低下してくる慢性腎臓病と、何らかの原因で急激に腎機能が低下する急性腎臓病があります。
腎臓病は腎臓の機能が50%以上失われた状態のことを言います。腎臓の細胞は、一度破壊されその機能を失うと、回復することはありません。
今回は高齢猫に多い慢性腎臓病について記載します。
●腎臓の機能について
腎臓病を理解するうえでまず簡単に腎臓の機能について説明します。腎臓の主な機能は次のものがあります。
1.尿中に老廃物を排出:エネルギー合成過程ででた老廃物や薬物などを尿中に排泄します。
2.電解質のバランスの調整:体内の電解質(ナトリウム・リン・カリウム・カルシウム・塩化物イオン・リン酸イオン・重炭酸イオンなど)のバランスを一定に保っています。
3.血圧の調整:レニンという血圧を調整するホルモンを分泌して血圧を調整しています。
4.造血ホルモンの分泌:エリスロポイエチンという赤血球の産生を促すホルモンを分泌します。
5.ビタミンDを活性型ビタミンDへ変換:骨の生成に必要な活性型ビタミンDを合成します。
●猫が腎臓病になりやすい原因は?
猫に腎臓病が多いはっきりとした原因はまだわかっておりません。一説では、猫の祖先は砂漠で生活しており、体内の水分を保持するため濃縮したおしっこが作れるように進化しました。濃縮したおしっこを作ることで腎臓の細胞が少しづつ破壊されていくのではないかと考えられております。
また、腎臓の細胞(ネフロンと呼ばれる腎単位)自体も他の動物より少ないということも猫に腎臓病が多い原因の一つと考えられています。
●慢性腎臓病の症状
体内の老廃物が尿中に排泄されずらくなり、血液中に老廃物が溜まることで以下の症状が出ます。
食欲不振、体重減少、嘔吐、口臭、脱水、飲水量・尿量の増加、血圧の上昇など
また、腎臓病が進行してくると貧血が出てくることもあります。(腎性貧血)
腎臓病の検査
腎臓病の検査は血液検査や尿検査、画像検査で腎機能を判断します。
●血液検査
1.BUN(血液尿素窒素)
尿素窒素とは、食事として摂取した肉などのたんぱく質が体内で分解されて最終的に残った老廃物です。腎臓の機能が低下してくるとBUNは上昇してきますが、腎機能が低下していなくてもタンパク質の過剰摂取や脱水、消化管出血、飢餓などでも上昇してきます。血液検査でBUNの上昇が見られたら、腎機能は7割以上が失われた状態を意味します。
2.Crea(クレアチニン)
Creaはアミノ酸の1種であるクレアチンが代謝されてできた物質で、筋肉運動後にできる老廃物です。Creaはタンパク質摂取量に影響を受けず、常に体内で一定量産生され、体内に再吸収されることなく尿中に排泄されます。腎機能が低下してくると尿中にCreaが排泄できず、血中Crea濃度が上昇してくるため腎機能を評価する指標になります。しかし、Creaは筋肉量に比例するため、筋肉質なオス猫のほうが数値が高くなりやすいです。血液検査でCreaの上昇が見られたら、腎機能は7割以上が失われた状態を意味します。
3.SDMA(対称性ジメチルアルギニン)
最近開発された腎機能検査の指標です。腎機能が4割失われた段階でSDMAの数値が上昇し始めるので、BUNやCreaよりも早期に腎機能の低下を発見できる検査です。Crea検査と比較して猫では平均17か月早く腎臓病を発見できる可能性があるというデータも出ています。
●尿検査
1.尿比重検査
尿は腎臓で血液中老廃物や水分をろ過・再吸収して作られます。腎機能が低下してくると、ろ過や再吸収の機能が低下してくるため、薄い尿しか作れなくなり、尿比重が低下してきます。腎臓病以外でも水をたくさん飲んだり、水分の再吸収をつかさどるホルモンの異常でも尿比重が低下してくることがあります。
2.UPC(尿たんぱく/クレアチニン比)
尿中のたんぱく質とクレアチニン濃度の比率を測ることで、たんぱく尿の程度を数値で表したものです。
●画像検査
1.X線検査
腎臓の大きさや位置が把握できます。腎臓や尿管に結石が見つかることもあります。
2.超音波検査
腎臓のサイズや内部構造を確認することができます。
腎臓病の治療
腎臓は1度破壊されその機能が失われると回復することはありません。猫の慢性腎臓病における治療は、残された腎機能をできるだけ維持していくことが目的になります。
●食事療法
食事中の主にたんぱく質の分解産物の体内での増加が腎臓病の症状を悪化させるので、食事療法は非常に効果のある治療のひとつです。腎臓病用の療法食が各メーカーから出ているので、それぞれの猫にあった食事を与えるといいでしょう。
腎臓病の療法食の特徴としては、たんぱく質やリンが通常の食事よりも制限されています。これらを制限することで、腎臓病の進行を抑えることができます。
各社の腎臓病療法食
・ロイヤルカナン 腎臓サポート
・ヒルズ k/d
・ドクターズケア キドニーケア
・jpスタイル キドニーキープ
など
動物病院で療法食の試供品がもらえると思うので、好みの食事を見つけてみてください。
●血圧の調節
腎臓病が悪化してくると、血圧が上昇してくる場合があり、血圧が上昇するとさらに腎臓病の悪化につながるので、血圧の調節は腎臓病の進行を抑えるのに重要であるといわれています。
血圧を下げる薬はACE阻害薬(ベナゼプリル)やカルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン)、ACEⅡ受容体阻害薬(セミントラ)などが存在します。
●脱水の治療
腎臓の機能が低下してくると尿量が増え、脱水状態になりやすくなります。脱水は循環血液量が低下するため腎臓病の悪化だけでなく、全身状態に大きく影響します。そのため、脱水状態になっている場合は水分補給する必要があります。
点滴での水分補給方法があり、直接血管から入れる静脈点滴と、皮下組織に水分を補給する皮下点滴があります。
口からの水分補給だけでは足りず脱水状態になっている場合は、定期的に点滴での水分補給によって腎臓病の症状を軽減することができます。
●嘔吐、胃炎の抑制
腎臓病が悪化して尿毒症の状態になってくると、消化器症状が出ることがあります。消化器症状が原因で食欲の低下や胃炎、嘔吐などが現れることがあります。制酸剤や制吐剤を用いて治療します。
●血中カルシウム、リン濃度の調節
腎臓病に罹患した猫の約6割は高リン血症になっているといわれています。食事のところでも述べたように、リンは腎臓病の進行を早めてしまいます。
食事療法でも血中リン濃度が高い場合は、リンの吸着剤を別に与えるといいでしょう。
サプリメントですが、レンジアレンなどの製品があります。
●その他の治療
・貧血の治療
腎臓から分泌される造血ホルモン(エリスロポイエチン)の低下で貧血が起きることがあります。治療としてはエリスロポイエチン製剤の注射などがあります。
・活性炭の投与
食事と一緒に投与することで炭が尿毒素物質を吸着して便と一緒に排泄してくれます。尿毒素物質の上昇を抑えてくれる働きがあります。
・新しい腎臓病の薬
今年動物薬で認可を取って少し話題になりましたベラプロストナトリウム(ラプロス)という薬です。人薬では以前から存在していました。この薬は腎臓の血流を回復し、腎臓の炎症を抑えることで、腎臓病の進行を遅らせる働きがあります。
高齢の猫さんは腎臓病に罹患している割合が高いです。適切に治療・予防をすればより長生きできると思います。
猫の慢性腎臓病がはっきりとした症状として出てくると、腎機能の7割以上が失っている状態であることが多いので、我々動物病院では出来るだけ早期に発見する手助けができればと思っています。
コメントをお書きください
エミコ (月曜日, 22 3月 2021 22:43)
初めまして。猫の薬についてお伺いいたします。
腎臓病新薬のラプロスを扱ってますか?